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*ニンジャスレイヤー感想ブロゴだ*

【感想】灰都ロヅメイグの夜

5月13日、ニンジャスレイヤー翻訳チームの母体であるダイハードテイルズ出版局より、杉ライカさんの作品『灰都ロヅメイグの夜』が公開されました。
そもそもこのダイハードテイルズというのは(重篤ニンジャヘッズならばご存じのように)今から遡ること十数年前、2000年前後にネット上にWebサイトを構えていたライター集団というかオンライン小説サークルで、もともとは『ニンジャスレイヤー』自体もそこで翻訳公開されていた作品のひとつだったのでした。

最近、そのダイハードテイルズのサイトが新たに整えられ、これから電子・物理の両媒体を通して精力的に作品を発表していく予定であることが告知されました。作品は既にTwitter上で連載されてきた『ペイルホース死す!』『スチームパワード』『ブーブス・バンド』シリーズ(!)ほか、新旧タイトルに及ぶようです。

『灰都ロヅメイグの夜』は、有料コンテンツとしてはその第1弾にあたる作品。全9章からなる長編小説作品で、1章および2章が無料公開され、3章以降を含む全作はnote上で500円で購入できます(いわゆる投げ銭制によりそれ以上のドネートも可能)。

購入にはnoteというWebサービスのアカウントを作成する必要があり、支払いはクレジットカードのほか携帯電話会社を通じた代行サービスに対応しているようです(私はカードで購入しました)。購入後は、Webサイトでもアプリでも自分のアカウントにログインしていればいつでも読めますよ。
なお、当ブログは基本的には「ニンジャスレイヤー感想ブログ」ですが、今後はダイハードテイルズ作品の感想などについても書いていくつもりです。以下、極力ネタバレなしのざっくりとした感想を。

緻密に組み上げられた硬派なファンタジー作品

ものすごく面白かったです。空き時間に少しずつ読み進めようと思っていましたが、明け方までかかって一気に読み切ってしまいました。一章ごとに視点や場面がまったく違って、絶妙に続きが気になるんですよ!

試し読みで公開されている「1:霧と酩酊」は、重厚な文体と緻密な情景描写、なにより読者を「君」として語りかける、懐かしのゲームブック調の雰囲気に引き込まれます。固有名詞や難解な言い回しが多く、読みにくそうだなと思われるかもしれません。ただ、この導入も全体的な構成からするととてもよくできた「仕掛け」であって、地の文が「君」と呼びかける人物が誰であるかも、後の章でほどなく明かされます。そして、その人物の辿る運命も。

舞台は"灰都"ロヅメイグ。雑然とした建物群が重層的に折り重なる、濃い霧に満ちた巨大都市。ニンジャヘッズならばすぐにキョートのアンダーガイオンを連想するところですが、吹き抜け構造になっていたり、下から順に1層、2層と数えていくあたりが違うようです。
主人公は隻腕の剣士グリンザールと、隻眼の吟遊詩人ゼウド。そのゼウドがなぜかいきなり瀕死のグリンザールに肩を貸しながら、這う這うの体でロヅメイグに帰還するところから物語は始まります。

3章以降では、彼らを狙う複数の「敵」の存在、そして互いに相棒にすら隠しているゼウドとグリンザールのそれぞれの壮絶な過去が順を追って明かされ、最後にそれらの伏線がある一夜の事件に集結します。この構成がまず見事でした。そう、『灰都ロヅメイグの夜』は書きかけでも未完でも何でもなく、世界観として枝葉の如く広がる膨大なバックグラウンドを匂わせながらも、作品としてきれいに完結しているんですね。かなり計画的に章立てがなされ、そのあとに細かい部分に肉付けされていったであろうことが窺えます。

また、この作品そのものはニンジャスレイヤーとは全く関係がなく、比較すること自体がナンセンスであることは承知のうえで、やはりどうしても類似する点を見出したくなってしまいます。というのも、後半の「6:竜の舞う夕暮れ」で明かされるグリンザールの過去、冒険の発端たる少年時代のある事件についての壮絶な描写が、フジキドが戦う理由についてのそれに似ているんですよ。悲しみや絶望の極地から立ち上る、無垢なる暴力衝動、湧き上がるエネルギー、そうしたもの…つまり「狂気」の表現。ここには圧倒されました。他にも、この作品にはいくつもの極限状態と、それに伴う狂気が登場します。

クライマックスの戦闘シーンにもハラハラさせられました。一挙手一投足が映像的で、しかも次の瞬間に「そう来たか!」という驚きがある。全体的に暴力表現が多く、今のご時世では差別表現と捉えられかねない表現も出てくるのですが、当然ながらなにかに配慮して萎縮する必要はまったくないと思います。

私は本作の源泉たる欧米のファンタジー小説には全然造詣がなく、せいぜいそこからTRPGを経由して派生したロードス島、ルナル、クリスタニアくらいしか読んだことがないのですが、そのころにハマっていたわくわくする感じを久しぶりに思い出しました。夢中になってしまった。

それにしても、この作品をイラスト・マンガ化なり映像化するのは只事ではないなあと思います。読んでいてわかってくるのですが、文章表現という形式、この文体でしか表現できないリズムのようなものが確かにあって、それが世界観に密接に繋がっているのです。これ、ほんとに歴史のなかに埋もれたままになっていなくて良かったですね。興味のある方は、この機会にぜひ読んでみてください。